名古屋地方裁判所 昭和29年(行)15号 判決 1962年12月08日
原告 株式会社富国庶民金融
被告 名古屋西税務署長
訴訟代理人 林倫正 外三名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、原告会社はいわゆる株主相互金融の方式をもつて金融業を営む会社であり、被告は昭和二八年六月三〇日に原告会社の昭和二六年五月一日より昭和二七年四月三〇日に至る事業年度の法人税につき、その確定申告に対して調査に基き所得金額を三〇〇、八〇〇円とする旨の更正処分をなしたこと、被告は右更正処分にあたり原告会社が右年度内に株式優待金として支出した金二五二、〇一九円を損金を認めず所得金額に算入した(一〇〇円未満切捨計算)ものであること、右の支出を損金と認めるなら原告会社の右事業年度における所得金額は四八、八六六円となるべきことは当事者間に争いがなく、結局本件においては右株主優待金名義の支出を法人所得計算上損金とすべきか否かが唯一の争点であるのでこの点につき判断する。なお被告が昭和二九年三月一五日附で更に右所得金額を三一五、〇〇〇円と更正した旨の被告主張の事実は、これを認むべき何らの証拠もない。
二、本件株主優待金の性格を検討するに、原告会社はその主張二の如き業務運営方法をとるものであることは当事者間に争いがなくまた成立に争いのない乙第二、第三、第五乃至第七号証、同第一一号証の三、及び甲第二、第三号証、その方式により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一〇号証、同第一一号証の一、同第一三乃至第一七号証並びに証人宮田富雄、同宮崎関雄、同栗木忠雄(但し後記措信しない部分を除く。)の各供述によれば、原告会社はパンフレットによる外務員の説明により、株式を取得せしめるものである旨を明らかにして株式売買の斡旋をすることとし、その株式譲受人に対しては代金完済後株券を交付し、株主名簿の備付名義書換、株主総会の開催等、名実ともに株主として取扱つていたこと、及び会社経理上本件株主優待金の支出は、優待配当金等の名称を付した項目を設けこれを営業経費とは区別して取扱つていたことを認めることができる。証人栗木忠雄の供述、中右認定に反する部分は措信しない。以上の事実によれば、本件株主優待金は原告会社がその株主に対して、その株主なる地位に基づきなした無償の利益供与たる性格をもつものと認められる。契約に基く受融資権不行使の代償或いは実質は預り金に対する利息であつて原告会社の経営上資金源確保のための必要経費である旨の原告の主張は、その主張のような契約がなされた事実は原告代表者梅尾道久、証人宮崎関雄、同栗木忠雄の各供述中これにそうかの如き部分は措信し得ず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。仮に右の事実が認められるとしても、契約による受融資権の授与そのものが単に株主であるということのみを理由として、他に何ら正当な理由なくなされにたものである以上、それによつて、株主とは無関係な別個の地位を生ずるものとは解し難い。また原告会社のなす融資は利息を徴するものでありその利息収入が原告会社の利益となるものである以上、単に融資を受けないということが原告会社に対して何らかの特別な利益を与えており、原告会社はこれに対して何らかの対価を与えるべきものということはできない。更にまた前記争いのない事実及び認定事実によれば、原告会社が株式譲受人から受け入れるのは株式代金もしくはその立替金であつて他に預り金と目すべきものは存在しないから、預り金に対する利息であるとの原告の主張も理由がない。もつとも証人長瀬磯五郎、同伊藤春雄、同今枝三好及び原告代表者の各供述によれば、原告会社の外務員中にはその説明の不充分な者があり、また株式譲受人中には株主となる意識を全く持たずに銀行預金或は無尽掛金と同じものと考え、その意思で申込をなした者のあつたことも認められるが、原告会社と右の如き者との関係をどのように解するかは別として、原告会社としては右の者を株主として処遇していたのであるから右の事実が直ちに原告会社経理上に影響を及ぼすべきものではない。資金調達の関係上原告会社の存立には融資を受けない株主の存在が不可決であることは明らかであり、そのためこれに対して何らかの利益を供与することが事実上必要であることは首肯し得るが、それは実質上株式代金そのものの受入れによる資金獲得を図るものであるから、当然利益の配当によるべき性質のものであり、それをもつて必要経費とすることは出来ない。その他本件株主優待金等の支払を受けるべき株主が原告会社に対しその対価たるべき何らかの利益をもたらしていることの主張立証なく、結局本件株主優待金は株主が株主たることにより株式数に応じて原告会社から無償で供与されるものたる性格をもつものと認められる。
三、本件株主優待金が右の如き性質のものである以上、それが商濃上適法な利益配当か否か、また所得税法上の利益配当に該当するか否かはともかく法人税法上、法人所得の計算にあたつては損金計上を認めることなく所得金額に算入するのが相当である。原告挙示の判例は事案が異なり所得税法上の利益配当に関するものであり、本件に適切ではない。
四、以上の理由により被告が本件株主優待金の損金計上を否認し本件更正処分をなしたことは適法であり、他に何らの違法も主張立証されていないから、結局本件更正処分を取消すべき理由は存しない。従つて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 布谷憲治 外池泰治 白石寿美江)